グラファイトデザイン(GDR)のサイクル事業休止。あのニュースは当時のロードバイク愛好家たちに衝撃をあたえました。
営利企業は利潤を出してなんぼ。結果が伴わなければ撤退という苦渋の選択も致し方ありません。
とは言え、いちロードバイクファンとして残念でなりません。
今回はGDRの自転車事業休止に関して思うことをつらつら書いてみようと思います。
GDRショック!状況分析すると撤退はやむを得なかった!?
- 開発コストの上昇
- 不安定な生産供給体制
- 営業力不足
Webサイトにあがっていた、グラファイトデザインの事業休止理由は上記3点。
具体的に言えば、下のようになると思います。
- 円安と中国の人件費高騰によるコスト増
- 生産委託工場との関係強化失敗
(発注ロットが多い大手優先の事情) - ブランド力強化の失敗
特に致命的だと個人的に思うのは、「3」のブランド力強化の失敗。
グラファイトデザインのフレームは総じて高価。
顧客に高くても買いたいと思わせる「指名買いブランド」へ7年かけて昇華できなかったことが最大の敗因と思われます。
(; ゚∀゚).。oO(メテオハイブリッドという廉価フレームがあったけど2015年販売スタートの製品で知名度なし!「グラファイトデザイン=高い」というイメージは払拭できなかった…)
製造コストの上昇
製造コスト面での理由を考えると、第一に急激な円安。
第二に中国の人件費高騰が挙がります。
円安の影響
グラファイトデザインの自転車用フレームの生産工場は、中国と言われています。
当項目で、円安の影響によって仕入れ値がどれだけ高騰するか考察してみましょう。
2009年度 ドル/円 年間平均TTS:94.57円
2010年度 ドル/円 年間平均TTS:88.81円
2011年度 ドル/円 年間平均TTS:80.84円
2012年度 ドル/円 年間平均TTS:80.82円
2013年度 ドル/円 年間平均TTS:98.65円
2014年度 ドル/円 年間平均TTS:106.85円
2015年度 ドル/円 年間平均TTS:122.05円
グラファイトデザインがサイクル事業を開始したのが2009年。
この年から2015年までのドル/円 TTS(Telegraphic Transfer Selling)を表したものが上になります。※1.
2000年代後半に起きたリーマン・ショックに端を発するリスク回避の超円高。
民主党政権の無策という追い打ちが重なり、一時1ドル75円95銭という前代未聞の超超円高になったのは記憶に新しいですな。
この円高の影響で日本の製造業は死滅する勢いでした。
一方、海外から物を仕入れる輸入業者は声にこそ出しませんが、わが世の春を謳歌していたことでしょう。
( ゚∀゚).。oO(2011年頃は海外通販を利用すると凄いことになっていたなぁ~)
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グラファイトデザインのカーボンフレームの仕入れ値を1,000ドルと仮定します。
2009年からのフレーム一個当たりの仕入れ価格を平均TTSで円換算してみると以下のようになります。
2009年の仕入れ価格:9万4570円
2010年の仕入れ価格:8万8810円
2011年の仕入れ価格:8万840円
2012年の仕入れ価格:8万820円
2013年の仕入れ価格:9万8650円
2014年の仕入れ価格:10万6850円
2015年の仕入れ価格:12万2050円
2015年の仕入れ値は、2012の1.5倍。
これは、とてつもないコストアップです。
販売価格に転嫁しなければ、企業は死んでしまいます。
グラファイトデザインは、いわゆるハイエンドフレームを主に販売していました。
元々割り高だった商品を円安を理由に値上げしたら、よけい売れなくなります。
例え値上げしなくても、利益を出せずに赤字が積み重なってしまいます・・・。
値上げしても地獄。
値上げしなくても地獄。
どちらも地獄なら、サイクル事業を止めるという経営判断は真っ当な判断と言えます。
※1. 為替相場について
基本的に日本円を人民元に両替する場合は円を基軸通貨たるドルに一旦両替。
その後、ドルを人民元へ両替します。
人民元は今後変動相場制へ移行すると思いますが、現時点では変動幅を固定した固定相場制。
人民元/ドルは一定のレートと仮定しています。
ちなみにTTSとは、「円」を「外貨」に交換する際の電信売相場レートを意味します。
( ゚∀゚).。oO(こんなの覚える必要はないよw)
中国の人件費高騰
中国の人件費が高騰しているというニュースは、よく報道されています。
中国の経済特区に指定されている深セン市の最低賃金は、ここ5年で1.5倍に上昇。
人民日報によると、中国の実質的な生産コストは、すでに米国に肉薄しているとの報道まであります。
人件費の安さを武器に世界の工場として物づくりを一手に引き受けてきた中国ですが、そのアドバンテージは崩れつつあります。
このまま人件費の高騰が続けば、ロードバイク用のカーボンフレームに価格転嫁されるのは想像に難くありません。
生産供給体制の弱さ
例外はありますが、ロードバイクのカーボンフレームは台湾製と中国製が多くを占めています。
ブランド名は違えど、製造工場は同じというパターンが多々あり。ヨーロッパ有名ブランドの委託であれば、中国工場にかなりの数が発注されるでしょう。
大口のロットとなれば、価格的優位性も当然にまします。
一方、日本という狭い市場がメインのグラファイトデザインは販売数が見込めないので少量ロットでの委託とならざるを得ません。
これでは数の優位によって供給面で懸念が生じても仕方なし。価格・供給のどちらを取ってもグラファイトデザインに勝ち目はありません。
ブランド力強化の失敗
個人的に思うグラファイトデザインのの致命的な部分は、デローザのような強固なブランドイメージを確立できなかった点。
ロード乗りとしてグラファイトデザインの「しなるフレーム」は、とても興味がありました。しかし、指名買いしたいメーカーかと問われると…。
思わず沈黙してしまいます。
(;´Д`)
グラファイトデザインのトップグレードフレームは、およそ42万円。
この価格であれば、超一流ブランドのTIMEやLOOKも射程圏内!
特別な思い入れがない限り、グラファイトデザインを選ぶ理由は弱いと言わざるを得ない。
ブランドとしての輝かしい歴史がなく、グランツールへ参加するUCIワールドチームへ機材供給できないグラファイトデザインのブランド戦略は、困難を極めたはずです。
(; ゚∀゚).。oO(一朝一夕ではデローザのようなブランドネームはできんからね)
GDRの選択と集中は妥当な判断
矢野経済研究所によるスポーツ用品の国内市場規模を見ると、ゴルフは2,600億円規模。
一方の自転車は、404億円規模。
その差は、実に6.4倍にもなります。
グラファイトデザインは、元々ゴルフのカーボンシャフトを商う会社。
収益が上がらない部門を切り捨てて、市場規模が大きいメイン事業へ注力するのは経営者として真っ当な選択と言えます。
(´Д`。).。oO(今期の純利益71%減という厳しい予想結果は不採算部門の切り捨てという形で株主に説明しなきゃならんから辛いわなぁ・・・)
参考
- 矢野経済研究所 スポーツ用品市場に関する調査結果2015
- GDR IRニュース サイクル事業休止に伴う特別損失の計上並びに、業績予想の修正に関するお知らせ
まとめ
- 開発コストの上昇
- 不安定な生産供給体制
- 営業力不足
これら悪要因がズンズン重なったことによる、グラファイトデザインのサイクル部門休止。
新規ブランドを育てるということがどれほど困難か、まざまざと見せつけられました。
現在、日本におけるスポーツサイクル市場は成長期を過ぎて成熟期。ロードが欲しいと思った人には、すでに行き渡っている状況です。
今後、成長できる伸びしろが少ない分野は企業にとってレッドオーシャン。国内の自動車市場のように今あるシェアの奪い合いとなります。
自転車フレームを扱う新興企業にとって、これは苦しい現実でしょう。
色々とネガティブなことを書いてきましたが、GDRが完全に自転車業界から消えたわけではありません。GDRの魂は東洋フレームに宿っています。
いつの日か、GDRのカーボンを技術がいきづくHYBRID ROAD-Dを手に入れようと心に誓っているRockmanでした。
(´-`).。oO(市場のデータを正しく読み取るって難しい作業だよね。ベストセラーのファクトフルネスの内容をしっかり理解してビジネスに生かしていきたもんじゃ)
コメント
グラファイトデザインさんは、以前自転車雑誌でうちはmtbは26を作続けます。なんて言ってたのに・・ダートフリークが扱っているライテックあたりもやばいかも?
>Takuzo 様
色んな意味でグラファイトデザインの休止は残念です。
復活を望む声もありますが、非常に難しいでしょうね・・・。
ライテックはグラファイトデザインと状況が異なるので大丈夫だと思います。
ヨネックスはヤバイと思いますけど。(^^;)
グラファイトデザインの理念に共感して昨年暮にザニア買いました。撤退は大変残念です。
>リブロ・カスターニャ 様
はじめまして。
コメントありがとうございます!
グラファイトデザインの撤退は本当に残念です。
固いフレームのロードバイクに乗っているので、「しなるフレーム」の乗り味に興味津々でした。
グラファイトデザインのフレームは、日本のロード乗りの間で貴重な存在です。
ぜひ、大切に乗ってあげて下さい。
多くの要因があると思いますが、一番は本業のゴルフ事業部の不振から休止になったんです。
ゴルフでのGDを知っている方なら世界企業で、シャフトをセット分となると憧れのブランド。
それが安売りが定着したゴルフ業界で完成クラブでシャフト単品より安く売られていたりする。
自転車に力を注ぐ前に本業をということです。
だから未だに供給してますよ。
途絶えていません。
休止です。
TOYOもフォークやピラーはGDです。
未だに依頼をすればコラボ製品も作れます。